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日々の暮らしをまじめに、大切に

日々の暮らしをまじめに、大切に

北井知枝さんのうつわ

Kitchen
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1つ1つの表情が様々で、温もりある作品を作られている北井知枝さん。この魅力はどこからくるのでしょう。器づくりのことはもちろん。幼少期のことや、作品づくりのこだわりなど、お話を伺いました。

通っていた幼稚園が、「遊んで学ぶ」ことを大事にしていたため、物心ついた頃から、粘土でキリンを作るなど、小さいものを立体的に作ることが得意だった北井さん。そんな北井さんのご両親は、「DIY(手作り)好き」。生活を少しでも良くしよう、とテレビボードや、棚などを自分たちで試行錯誤しながら、作られていたそうです。エネルギー溢れるご両親の影響もあり、北井さんも興味があることは、自分なりに工夫をして遊ぶなど、のびのびと育っていきました。骨董やアンティークの食器、雑貨などを扱う「蚤の市」へ、お母様と遊びに行くのも楽しみのひとつ。自分で作った料理を、お気に入りの器で食べるのが好きだったお母様の影響もあり、北井さんも器の魅力に惹かれていったといいます。

高校は、工業系のプロダクトデザイン科を修了後、デザインの専門学校へ進みます。卒業後は、ダンボール製品を扱う会社に就職します。展示台など、イベント用の什器をダンボールで作成し、販売をしていました。北井さんは、パネルデザインなど、グラフィックの仕事を担当。何をしてもいい、という自由な社風が気に入っていたものの、1年で退職をすることに。熱意があり、何でも作ることができてしまう上司。人望もあったため、周りには尊敬できるかっこいい方々が多く、いらっしゃったそうです。そんな上司を前にして、自分も真面目に仕事をしているけど、中途半端な気持ちではいられない、と考えるように。さらに、ものづくりを通して、多くの人と繋がっていくことは、素晴らしいことだと実感するようになります。やがて北井さんも、ご自身を主体にしてものづくりをすることで、様々な人と関わりたいと思い、独立することを決めます。

独立をするなら、小さい頃から馴染みがあり、興味がある陶芸。と決め、岐阜県の陶芸を学べる学校へ入学。ここでは、土練りから成形方法、陶磁器釉薬についてなど。デザインや製造に関する技術と知識を、基礎から学ぶことができました。2年生になった頃、北井さんに転機が訪れます。作り手が展示、販売を行うクラフトフェアへ行った際、将来の師匠、尾形アツシさんと出会いました。尾形さんに関しては、作品を薪窯で焼いていることで、以前から気になっていたそうです。微調整が容易で安定していることから、電気窯や、ガス窯で多くの焼き物が焼かれている中、薪窯は”人の手”で風力や温度調整をしなくてはいけません。ただ、三昼夜にわたる薪窯焼成によって、じっくりと焼き抜かれた器は、より奥深く、味わい深い作品を生み出すことができます。窯詰めされる場所によっては、様々な色や、表情の変化も見せてくれるのです。陶芸を始めるにあたり、今まで学んできたことだけではなく、土物を扱う新しい技法も学んでみたい、と考えていた北井さん。意図して表現しているのではない、力強い作風にも憧れていたといいます。尾形さん自身も、弟子をとることを考えていた時期だったこともあり、晴れて1番弟子になることが実現。たちまち、北井さんは薪窯の魅力にどっぷりとハマってしまったそう。自分の行動で、火力や温度を調整できることを体感し、感動したといいます。

尾形さんの元で3年弱学んだ後、北井さんは陶芸家として独立しました。作品は、優しい人柄が作風にも表れていて、眺めているとじんわり、温かい気持ちになります。丸みがあり、かわいらしいポットもそのひとつです。デザインを勉強していたこともあり、形状を意識して創作することが多いそうです。コップの持ち手が小さい、底が深すぎない?など様々な意見があるそうですが、「少々使いにくいものでも、それでも使いたい、と思えるような愛嬌とか、美しさを兼ね備えたものを作り続けたいです。このコップじゃないとだめなんだ、と思えるような。」と北井さんは答えてくれました。

作品づくりにおいては、“白いシャツ”のような器がつくりたいと、北井さんはおっしゃいます。「誰にでも合うようなシャツではなく、その人なりにシャツをどう着こなすか、という余白を持ったものを作りたいです。」お皿や、コップは使い手の手元に渡って、より創作物として活きてくるものです。着こなし次第では、可愛くも、かっこよくもなる白シャツのように、ベーシック過ぎず、個性的すぎない作風を目指されています。素朴ですが印象に残る、北井さんの器の魅力が、その意味を教えてくれているような気がします。

普段大切にしていることは、表現することだけを追求するのではなく、毎日しっかり生きる、ということ。陶芸の仕事は意外と地味で、重労働ですが、洗濯をしたり、料理を作ったりする時に、アイディアが浮かんでくることも。実際、陶器のボウルや、ヘラを作ってみたらどうだろう、と調理道具の創作意欲がわくこともあるそうです。ご飯を作って、食べて、しっかり寝る。単純ですが、意識せずに続けることは中々難しいこともありますよね。そういった生活を大切に思うことで、私たちの日々の暮らしにそっと寄り添うような、温もりのある作品を創りだすことができるのだと思います。

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