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好きなことを続ける楽しさ、厳しさ

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鈴木美央さんの鏡餅

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「自分が好きなものを形にすることは楽しいです」そう話してくれた木彫刻家、鈴木美央さんは福井県鯖江市の「鈴木彫刻所」で家業の寺社仏閣、仏像彫刻、欄間彫刻などを手がけられる一方、自身のちいさな作品づくりをされています。 鈴木さんは、富山生まれ。高校生だった鈴木さんは、美大受験のためデッサンの勉強をしていました。伝統工芸に興味を持ったきっかけは、周りの同級生との出会いでした。加賀友禅の家の娘さんなど、伝統工芸に関わる家柄の人たちが多かったそうです。そういう家に遊びに行く機会が多く、見ている内に惹かれるものを感じたといいます。小さい頃、お父様が買ってきたハトの置物の素朴さが大好きだったそうです。いつしか子供の頃に見た懐かしいものを、形にしたいと思うようになりました。高校卒業が近づいてきた頃、富山県の彫刻について書かれた新聞記事を読んで、単身住み込みで工房に飛び込むことに。そこは日本一の木彫の里、富山県井波市。仏像彫刻を得意とする工房でした。大学に行って学ぶよりも、すぐに仕事場に入って学ぶことを選んだのです。
しかし、弟子入りするのは難しいこと。親方から「弟子をとってもいいよ」という話が出ないと、工房に入ることができない制度だったそうです。鈴木さんは、いくつかの工房を見てまわる中、タイミングよく入ることができたといいます。当時は女の子は続かない、役に立たないとされ、なかなか引き受けてもらえない厳しい時代でもありました。工房に入ってすぐ、注文が入った商品を作らせてもらうことになります。練習もしていないので、最初は何もできませんでした。それでも、お金を頂く売り物だと思って、集中して丁寧に作り続けました。道具を知り、使い方をとにかく体で覚えていったのです。
鈴木さんが最初に担当したのは、神社の賽銭箱の模様を彫ることでした。大工さんが大まかな形に木を削ったものを、兄弟子が粗彫りし、鈴木さんが細かく彫っていく、という作業でした。寺社仏閣、仏像彫刻などを彫る際は、その対象のことを深く調べた上で、どんなものを製作するのが最適か吟味し作業に入ります。ご縁があった時にはじめて得る知識も多く、職人歴26年の鈴木さんでも、初めての仕事は今でも緊張するそうです。「彫れるのは分かっているけど、プロだって思えるような仕事をしなくてはいけないと思っています。ちゃんとお客さまの元へ納めるまでは心配です。」
工房では、親方が図案を描き、実際の彫る作業は兄弟子や鈴木さんが行っていました。時に親方から、図案を描かせてもらったこともあったそうです。重たい木を運んだり、機械で木を切ることよりも、女性である鈴木さんに合わせて、育て方を試みていたようです。工房での年季は5年。年季明けできたのは、鈴木さんが女性で3人目でした。同時期に入った新人は8人いましたが、親方や兄弟子との関係が合わず、人間関係で辞めてしまう人が多く、最後まで残ったのはわずか半分の4人でした。実際は、寝食を共にする兄弟子たちが身の周りの世話も含めて育ててくれるので、その人達と上手く付き合うことが重要だったといいます。そんな厳しい修行を乗り越えられたのは、工房が生まれ故郷と同じ富山県だったから。時々地元へ帰っては、友達や家族に会えたのが嬉しかったそうです。そのお陰もあり続けることができたのだと、鈴木さんは話してくれました。
鈴木さんのちいさな作品の1つ、胡粉(白い顔料)の白さが美しい「鏡餅」は、檜で作られています。木彫の鏡餅は、ありそうでなかった作品です。どのように作品は作られているのでしょう。最初は図案を描きます。その時点で、鈴木さんの頭の中では木の厚みや、感触は決まっているそうです。そこから、徐々に形にしていきます。次に、どの素材が合うかを吟味します。欅(けやき)か、檜(ひのき)か。それとも楠(くすのき)か。鏡餅は、やわらかくて白い木が似合うことから、檜を選んだそうです。“木目”も合わせてイメージをします。鏡餅の台は木の温かみを感じて欲しいため、木目が少しあるものを選んでいます。素材が決まったら木材を切って、粗彫りをします。その際、足を使って木を押さえ、左手に叩きノミ、右手に金槌(かなづち)を持ち、全身を使って彫り進めます。最後は、手彫りで丁寧に仕上げを行います。色塗りは、2度。多い時は3度行います。1度目は木のアクが出るので、やや黄色くなってしまうそうです。お正月の神聖は置物なので、より白く仕上げられています。お餅は手彫りのノミ跡をあえて活かした鈴木さんらしい仕上げになっています。
作品を作りあげることがゴールではなく、それを手に取った人がどう感じるか、そこまで気にかけて製作されています。彼女の作品は、本物の伝統工芸の手法を用いた、確かな技術で作られています。素材を活かした、丁寧で繊細な作品をぜひご覧になっていただきたいです。

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